私の婚約者には好きな人がいる
「夏乃子は誰かを好きになったことはあるか?」

「そうですね。初恋は二個上の近所のお兄さんでした」

「それで?」

「お兄さんは大学を卒業して、年上の綺麗な彼女と結婚しました」

「失恋してるじゃないか」

「初恋は実らないって、知らないんですか?」

「知らないな。誰かを好きになったことがない」

「えー!」

意外だった……。

「黙っていても女は寄ってくる。欲しいものは手に入る。なにも不自由はない」

「お金持ちな上に顔がいいと弊害(へいがい)いろいろあるんですね」

「なんだ、その目」

哀れみの目だよ。

「簡単に何でも手に入るとありがたみが薄れるいい例ですね」

「少しは遠慮してものを言え」

「言われたくないなら、早くお茶会に行ってください」

「わかっている」

部屋に入った時よりは明るい表情になっていた。
階段を下りて、サンルームに行ってしまった。
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