私の婚約者には好きな人がいる
「咲妃お嬢様、着きましたよ」

運転手さんの声で目を覚まし、車から降りた。
頭はぼうっとしたまま。
少し眠ったおかげで楽にはなったけれど、気持ちはどことなく重たい。

「……ただいま帰りました」

玄関で靴を脱いだなり、リビングからお兄様が顔を出した。
怜悧(れいり)な目がメガネの奥で裁判官のように私の様子を伺う。
お兄様は惟月さんとは違って柔らかい雰囲気は一切なく、キリッとした顔立ちをしている。
そのせいか、人を寄せ付けない空気を持っている。

「おかえり。咲妃(さき)清永(きよなが)はどうだった?大変だっただろう?」

いつもは帰宅が遅い恭士(きょうじ)お兄様が帰ったなり、待ち構えていたのはそれを聞きたかっただからだと気づいた。
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