私の婚約者には好きな人がいる
高級車が通り過ぎて行くのを見送りながら歩いていると、前方で車がとまった。
窓が開き、顔を出したのは恭士さんだった。

「夏乃子。どうした」

「恭士さんこそ。仕事はどうしたんですか」

「ああ。父さんに頼まれて家にある昔の知り合いの住所録が欲しいらしくてとりにきただけだ」

家にあまり帰らないから、気楽に入りづらいのか、それとも恭士さんがとりにいくと言ったのかはわからないけれど、恭士さんは車のドアを開けた。

「家まで行くんだろう?」

「はい。でも、歩いて行きます」

「なにかあったのか?」

私の様子がおかしいと思ったのか、恭士さんが探る様に目を細めた。

「えっ…えーと。運動不足なので歩いて行こうかなって―――」

言い終わる前に腕を掴まれ、車に引き込まれるとドアを閉められた。

「ちょっ…ちょっと困ります。見ようによっては誘拐犯ですよ」

「誰が誘拐犯だ。どこに行っていた?詳しく話せ」

仕方ない、と私は諦めて言った。
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