私の婚約者には好きな人がいる
傷つけたと思ったけど、これ以上親しくなってしまえば、離れる時、余計に辛い。

「そうか」

これでいい―――私はシートベルトを外そうと手を横にやると、その手を掴まれた。

「本当になんとも思ってないのか」

「……そ、それは」

鋭い瞳の前に私は身を震わせた。
嘘を吐くことを許さない目だった。

「な、なんとも思っていません!」

絞り出すような声で言い切った。

「夏乃子は本当に嘘がつけないな」

ふっと恭士さんが笑う。

「まあ、いい。今日はこれくらいにしてやる」

今日は?
この先なんて、なにも考えていない。
結局、主導権は私にはないと思い知らされただけだった。
恭士さんは手を離してはくれず、結局、車を走らせて家まで送ってくれたのだった。

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