私の婚約者には好きな人がいる

誘惑

お茶会が失敗に終わり、奥様は諦めるのかと思っていたけれど、違っていた。
恭士(きょうじ)様、おかえりなさい」
玄関で奥様が連れてきた女の人がにこにこと微笑みながら、恭士さんの妻です!と言わんばかりに出迎えた。
うんざりした顔で恭士さんは女の人を見た。
「またか」
仕事から、帰ったばかりの恭士さんは奥様を睨み付けた。
「よく毎日飽きもせず、連れてくるな」
確かにそれは同感。
けれど、奥様の顔の広さには感心する。
私でさえ、もう名前を覚える気が起きないくらいだった。
「恭士様。鞄をお持ちしますわ」
「結構」
恭士さんは女の人が鞄に触ろうとしたのを素早く避け、私に鞄を渡した。
夏乃子(かのこ)。部屋に持っていってくれ」
「はい」
「恭士さんの鞄を持っていくのは使用人の仕事ですよ」
「ええ、奥様」
そんなの初めて聞きましたけど、と思いながら、二階にあがった。
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