私の婚約者には好きな人がいる
机に置き、部屋から出ようとすると恭士さんが入ってきた。
「ひえっ!」
「なんだ、その声は」
「び、びっくりした!」
電気をつけてなかったから、鉢合わせると驚くのは当たり前だと思うんだけど。
「部屋に来るなら、わざわざ私に鞄を渡さないでくださいよ!」
また奥様に嫌味を言われたら、どうしてくれるの!?
「あんな得体も知れない女に渡せるか」
「意外と潔癖なんですね。最初に見た時、キスしてたわりに」
「なんだ。やきもちか?」
「は!?違います!素直な感想ですけど!」
余裕たっぷりな顔で机に手を置き、暗がりで笑う恭士さんは悪人にしか見えない。
スーツの上着を脱いだ。
手招きされたので、近寄り上着を受け取り、ハンガーにかけた。
「そうじゃない」
「え?」
「ネクタイをはずしてくれ」
指でネクタイをトントンと指し示した。
「自分で出来ますよね!?」
「何とも思っていないんだろう?」
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