私の婚約者には好きな人がいる
熱
プールに落とされた夜、誰か着替えさせてくれたのか、気がつくとパジャマ姿でベッドに横になっていた。
自分の部屋ではないことに気付き、体を起こそうとすると、恭士さんがそばにいた。
「夏乃子」
なんで、そんな泣きそうな顔をしているんだろうと、ぼうっと見ていた。
夢なのかもしれない。
いつも余裕たっぷりの恭士さんが弱った顔なんてするわけがないんだから。
「私の部屋に戻らないと……」
「いいから、眠れ」
大きな手が目を覆った。
恭士さんには言えないけど、冷たく見えるくせに体温はいつも暖かくて、何があっても大丈夫だと安心させる―――そんなこと思ってはいけないのに。
でもこれは夢だから。いいんだ。きっと。
「恭士さん」
「なんだ」
「手をつないで」
「ああ」
大きな手が手に重ねられ、その手を両手で包み込んだ。
「安心して眠れ」
髪を優しくかき上げ、囁くような声が心地いい。