私の婚約者には好きな人がいる
ぼんやりとした頭を働かせ、横を見るとベッドの脇に恭士さんがいた。

「熱は下がったか?」

「恭士さん!早いですね」

「ああ」

まだスーツ姿で着替えも済まさず、部屋にきたのか、おでこに自分の手をあてると頷いた。

「だいぶ下がったな」

「あの、いろいろとご面倒をかけたみたいですみません」

「面倒?」

「プールから助けてもらって、その…お医者さんまで呼んでくれたとか」

「謝るな。俺のせいだと思ってくれた方がマシだ」

今、気づいたけれど、恭士さんはどこかピリピリとしている。
なんだろう。
なにか気が張っているかんじというか。

「熱が下がっているならいい。会社に戻る」

「えっ!?今からまたお仕事ですか?」

「ああ、顔を見に来ただけだ」
……なんで?

さっと恭士さんは立ち上がると、背中を向けた。

「恭士さん!」

「なんだ?」

「い、いえ。お仕事頑張ってください」

「ああ。頑張ってくる」

不敵に笑う恭士さんの顔が悪人にしか見えず、嫌な予感がした―――その言葉がなにを意味しているのかすら、私はまだわかっていなかった。
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