私の婚約者には好きな人がいる
仕返し
熱も下がり、仕事に復帰したけれど、恭士さんの帰りは遅く、顔を合わせるのは朝くらいだった。
「お仕事忙しいんですか?」
「ああ」
眠そうに恭士さんは返事をした。
すでに奥様は朝食を済ませていない。
プール事件から奥様はあまり恭士さんと顔をあわせていないようだった。
なんだか、こっちのほうが申し訳ない気持ちになる。
「まあ、今日からは普通に帰れる。仕事が終わったからな」
「そうなんですか?」
「嬉しそうだな」
「気のせいです」
即座に切り返すと恭士さんは面白くなさそうな顔をした。
作ったばかりの野菜ジュースを置いたその時―――
「旦那様!」
玄関からバタバタと慌ただしい足音が響き、豊子さんと祥枝さんの小さい悲鳴が聞こえた。
「な、何事!?」
「来たか」
恭士さんは来るのがわかっていたらしく、肘をつき、頬杖をついて笑っていた。
「恭士!」