私の婚約者には好きな人がいる
豊子さんの焦る声が聞こえてくる。

「お願いします。どうか!弁明だけでも!」

何人かのスーツ姿の男の人達が入ってきた。

「た、高辻社長。突然、契約を切ると言われ、どうしたらいいか」

「こちらは融資の話が白紙になったんです」

「私のところは買収されて。どうして、こんな真似を」

綺麗な顔立ちをしているせいか、感情のこもらない顔はゾッとするほど、凄みがあった。

「なにをおっしゃいますか。安くて良いものを作る契約先が見つかっただけですし、高辻の銀行が融資するには業績が不安だった、という理由です。必要なら、買収する。そうですよね?父さん」

旦那様は恭士さんを睨んだ。

「か、家族がいるんです」

「全員で働けばいいのでは?」

「娘も妻も働いたこともない世間知らずです。どうかっ、融資を」

「今からでも働けますよ。一時的に融資を受けても仕方ないでしょう」

「恭士。やめろ。祖父の代からの付き合いだ」
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