私の婚約者には好きな人がいる
呼び出し
「今頃は空の上かな」
玄関先を箒で掃きながら、空を見上げた。
空が青い―――今日はシーツを洗って、布団を干そう。
それから、ソファーカバーを洗って、カーテンも洗おう。
そろそろ、夏用のカーテンに取り換えてもいいかもしれない。
奥様は歌舞伎のご贔屓の公演があるとかで、出かけると言っているし、庭師も呼んで、庭の手入れもしてもらおう。
そんなことを考えながら、掃除をしていると豊子さんが慌ただしくやってきて、言った。
「夏乃子さん、旦那様からお届け物をしてほしいそうです」
「私ですか?」
「はい。書斎にある本なんですけど、お読みになりたいとのことで用意はしておきましたから」
「わかりました」
「あら。夏乃子さん、高辻の本社に行くの?」
「はい」
奥様は夏用のワンピースにレースのカーディガンを羽織り、部屋から出てきた。