私の婚約者には好きな人がいる

別世界


「よく来たね」

ここまでよくこれたなと言わんばかりの態度に私は戸惑うしかなかった。
頼まれたから来たのにと思いながら本を差し出した。

「頼まれた本です」

ふっと鼻先で笑い飛ばされた。

「ここに来るまでの間、どうだった」

「えっ…?すごいビルだなって思いました」

「それで、周りの人間は自分とどう違った?」

そこまで聞かれ、ハッとした。
旦那様は私に自分の立場を気付かせようとしているのだと。

「…全然……違ってました」

声が震えた。

「この社長室は?」

「広くて立派だと思います…」

「眺めもいいだろう?」

にこにこと笑いながら、旦那様は窓の外を指さした。

「はい」

恭士(きょうじ)はここに座ることが決まっている」

コツコツと指が立派な机を叩く音がした。
顔をあげることができなかった。

「君は恭士に相応しいか?」

言われなくてもわかっている。
ぎゅっと拳を握りしめた。
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