私の婚約者には好きな人がいる
ビジネスホテルに連泊しているけれど、アパートを探した方がいいかもしれない。
クビになり、社員寮のアパートには当然、住めなくなった。

「お金、足りるかな」

多少の貯金はあるから、新しい仕事を探しつつ、アパートも探そうと決めた。

「家政婦紹介所も今日の所で最後ね」

ここがだめなら、違う仕事を考えないといけなかった。

「悪いけど、人は足りてるんだ」

「そうですか。お手間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

立ち上がり、紹介所を出た所で履歴書を置いてきてしまったことに気づき、戻ると話し声がした。

「雇えないよなあ」

「当たり前ですよ!もうこの業界じゃ有名ですからね。高辻様の息子に手を出して、怒りを買ったって」

「どうやって気に入られたか、聞きたかったわ」

「クビになるわよ」

笑い声が聞こえた。
入るに入れず、そっとドアの前から離れた。
どこに行くわけでもなく、気づいたら歩き続けていた。
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