私の婚約者には好きな人がいる
海が見える場所にいた。

「実家に帰ろうかな」

海沿いにある実家を思い出していた。
手すりに寄りかかり、ぼんやり眺めていた。
今まで積み重ねたもの全てを失った。
信用も仕事も―――
恭士さんからもらった連絡先がお守りみたいに手に握りしめられていた。
連絡したら、助けてくれるだろう。
けど、それは宮竹で働いている人達が今の私と同じ状況になるということだった。
捨てよう。
そうじゃないと、私は前に進めない。

「お土産、もらえなかったな」

昨日、たくさん泣いたのにまだ涙がこぼれて海の中に落ちていった。
< 237 / 253 >

この作品をシェア

pagetop