私の婚約者には好きな人がいる
「その場だけの口約束でいいだろう?」

「そ、その場だけ!?なんて……汚い考えを……」

「なんとでも言え」

恭士さんは腕を掴んだ。

「なにしてるんですか!?離してください」

「お断りだ」

恭士さんの顔を見ると、怒っているのに奥歯を噛みしめて、感情を押し殺していた。

「俺がどんな気持ちで帰ってきたかわかるか」

「お世話になった宮竹(みやたけ)さんの所の契約を切られるわけにはいかなかったんです……」

「馬鹿か?宮竹より俺を選べ!」

「できませんよ!宮竹さんのところに何人の人が働いていると思っているんですか!みんな、ごはんが食べれなくなります!恭士さんはわかってないんです!貧乏ってほんと辛いんですよ!恭士さんは私がいなくても、ごはんは食べれるんです!」

驚いた顔で恭士さんは私を見た。

「私、一人、クビで済んだだけよかったんです……。仕事は探せばありますから」

「それで、その求人雑誌か」
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