私の婚約者には好きな人がいる
「これは俺を捨てた罰だ」
首筋にいくつも赤い痕を残した。
自分の物であるという証をつけて、恭士さんは痛いくらいに腕を掴んだ。
「手……痛いです……」
「俺を簡単に捨てるな」
「仕方なかったんです……私と恭士さんは住む世界が違うから……」
体が震えた。
絶対に恭士さんは赦してくれないと分かっていたけど、必死で私は言った。
プライドの高い恭士さんは自分を捨てた私に腹を立てているはずだった。
でも、私は―――
「好きで恭士さんを捨てたわけじゃないのに……なんで……」
私が涙をこぼすと、頭を優しくなでてくれた。
私の『捨てた』という言葉に恭士さんは傷ついている。
その理由を嫌というほど恭士さんはわかっているくせに傷つくのだ。
あの立派な社長室が目に浮かぶ。
あそこに恭士さんは座るのに―――私でいいわけない。
「わかってる」
「私、愛人にはなれません……」