私の婚約者には好きな人がいる
なれるまで、時間がかかりそう。

「とりあえず、中に入ろう。体に障るだろう」

「立ち話くらい大丈夫ですよ」

恭士さんはずっとこの調子で、(しま)いにご飯茶碗すら持つなと言いそうだと思っていた。
中は変わらず、以前通りでホッとした。
自分の家じゃなかったのに不思議だ。

「夏乃子。少し休め。最近、引っ越しの準備で忙しかっただろう」

「大丈夫ですから!」

「ダメだ」

恐ろしいまでに過保護だった。

「わかりました……」

仕方ない。
一階に用意された私と恭士さんの部屋に入り、服をルームウェアに着替えて横になった。
天井を見上げると、プールに落ちた時、この部屋にいたんだと気付いた。

「懐かしい」

後で知ったのだが、恭士さんと妹の咲妃(さき)さんの実の母親は宮竹(みやたけ)の家政婦だったそうだ。
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