私の婚約者には好きな人がいる
兄の訪問

体が重い―――泣いたせいか、ちょっと目がはれていたけど、化粧でなんとか誤魔化した。
昨日の惟月(いつき)さんと中井さんのやり取りがなんども頭の中でループして、私はもう婚約を取りやめるつもりでいた。
それをどう両親に出そうかときりだそうかと悩んでいると、お兄様が私を見て、言った。

咲妃(さき)。元気ないな。昨日はなんの仕事をしていたんだ?」

恭士(きようじ)お兄様がミネラルウォーターを飲みながら、聞いてきた。

「恭士坊ちゃま。おしゃべりより、食事をなさってくださいな」

朝はあまり食べない恭士お兄様は静代さんに叱られて、目玉焼きをフォークでつついていた。
仕事が忙しくても私のことをきちんと気にかけてくれるお兄様。
それはありがたいのだけど、自分の体のことも忘れないでほしい。

「昨日は頼まれたコピーをしていたのよ」

「コピー?他は?」

きっと二、三枚程度だろうなんて思っているのは見て取れた。
口の端が微かにあがったのがわかったから。
どうせ私のお仕事なんて、お遊びだろうって思っているのよね。
お兄様は……
言葉を選びながら、角がたたないように言った。

「それだけよ。私からやりたいと申し出て、コピーをさせていただいたの」

「一日中?」

「え?ええ……」
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