私の婚約者には好きな人がいる
恭士お兄様の顔色を窺った。
険しい顔をしたかどうか、じいっと観察してみたけれど、飄々としていて、表情だけではお兄様がなんと思ったのか、まったく読めなかった。
「ふうん、そうか」
余計なことを言わないよう黙っていると、静代さんがお弁当を持ってきてくれた。
「恭士坊ちゃま。咲妃お嬢様が心配なのはわかりますけど、ご自分はどうなんです。朝食が進んでおりませんよ」
「静代には敵わないな」
「ほほほ。恭士坊ちゃま。ちゃんとサラダを食べてお仕事に行って下さいませ」
静代さんは手付かずのサラダに目をやって言った。
新鮮なレタスときゅうりが青々しく、トマトが食べやすいように角切りにしてある。
野菜嫌いなお兄様のために何種類ものドレッシングが用意されていてはさすがの恭士お兄様も静代さんには強くでれず、ため息をついたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます」
「高辻さん。僕より早かったですね」
閑井さんが驚きながら、スーツの上着を椅子にかけた。
「朝の掃除をしたくて早く出てきてしまいました」
「掃除をですか?物好きですね……」
閑井さんは昨日、漂白しておいた雑巾を渡してくれた。
雑巾の扱い一つにも閑井さんはきちんとされている。
どうやって漂白というものをするのか、教えていただいたから、今日は私がやろうと一人うなずいた。
なにもかもが目新しい。
今日は何があるのだろうかと、少しだけ楽しみになっている自分がいた。
もうここにこないほうがいいことはわかっていたのに。
どうしようかと悩みながら、机を拭いていると、閑井さんが言った。
険しい顔をしたかどうか、じいっと観察してみたけれど、飄々としていて、表情だけではお兄様がなんと思ったのか、まったく読めなかった。
「ふうん、そうか」
余計なことを言わないよう黙っていると、静代さんがお弁当を持ってきてくれた。
「恭士坊ちゃま。咲妃お嬢様が心配なのはわかりますけど、ご自分はどうなんです。朝食が進んでおりませんよ」
「静代には敵わないな」
「ほほほ。恭士坊ちゃま。ちゃんとサラダを食べてお仕事に行って下さいませ」
静代さんは手付かずのサラダに目をやって言った。
新鮮なレタスときゅうりが青々しく、トマトが食べやすいように角切りにしてある。
野菜嫌いなお兄様のために何種類ものドレッシングが用意されていてはさすがの恭士お兄様も静代さんには強くでれず、ため息をついたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おはようございます」
「高辻さん。僕より早かったですね」
閑井さんが驚きながら、スーツの上着を椅子にかけた。
「朝の掃除をしたくて早く出てきてしまいました」
「掃除をですか?物好きですね……」
閑井さんは昨日、漂白しておいた雑巾を渡してくれた。
雑巾の扱い一つにも閑井さんはきちんとされている。
どうやって漂白というものをするのか、教えていただいたから、今日は私がやろうと一人うなずいた。
なにもかもが目新しい。
今日は何があるのだろうかと、少しだけ楽しみになっている自分がいた。
もうここにこないほうがいいことはわかっていたのに。
どうしようかと悩みながら、机を拭いていると、閑井さんが言った。