私の婚約者には好きな人がいる

「お父様からお相手にお願いしてもらえば大丈夫でしょう?それに惟月(いつき)さんは専務でいらっしゃるし。咲妃(さき)を助けてくださるわ」

そんなことを言うお母様も働いたことはなく、おっとりとした口調で言った。
それに私が働きたいと言った時、一番反対したのはお母様なのに……
お父様の言うことには絶対なんだからと少しだけ納得がいかなかったけれど、会社勤めをしてみたい気持ちはすごくある。
私にとって会社は未知の世界なんだから!
そんな私の気持ちを察してか、お父様はにこにこと笑って言った。

「私から話をしておこう。結婚前にお互いを知れていいだろう。お前はなにも心配しなくていい」

「ご迷惑でなければ、それで構いません」

会社に行っては迷惑でしかないとわかっていたけれど、こんな機会は絶対にやってこない。
習い事でさえ、これはだめ、あれはだめと両親に言われてきたのだから。

「ご迷惑でなければ、ぜひ行きたいわ」

「よし。わかった。それじゃあ、向こうには私から連絡しておこう」

こうして、私は人生初の『お仕事』に行くことになったのだった。
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