私の婚約者には好きな人がいる
惟月さんの嫌そうな顔が目に浮かんだ。

「いえ…。惟月さんにご迷惑ですから」

「いやいや。ちゃんと惟月も了承したことだからね」

「惟月さんが?」

すぐには信じられなかった。
けれど、おじ様はこの話を早く進めたいのか、海外事業部のフロアを見回すと間水(まみず)さんを呼んだ。

「間水君」

「はい」

「咲妃ちゃんを惟月の秘書にするから、後は頼んだよ」

「えっ…惟月の…いえ、専務の秘書ですか?専務はなんて?」

「惟月はいいと言っていたが」

「そうですか」

間水さんはどこか、納得がいかない顔をしていたけれど、頷いた。
中井さんとのことを知っているなら、当然の反応だった。
おじ様はきっと知らない。

「あの、ご挨拶をしてからでも構いませんか?お世話になりましたから……」

間水さんはハッとして頷いた。

「ああ、そうだね」
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