私の婚約者には好きな人がいる
私自身には何もない。
それはわかっている。
だから、これはいいチャンスよ!
お互いを知るため、私を惟月さんに知ってもらうための―――!
気合十分でさっそく部屋で通勤着を選ぶことにした。
「なにを着ていけばいいかしら?」
働いたことのない私にとって、正しい服装というのがよくわからない。
クローゼットにはスーツがずらりと並んでいたけれど、惟月さんの好みもわからないし、就職活動をしていなかったから、リクルートスーツもない……
相応しい服装がまったく想像できなかった。
誰かからアドバイスをもらう?
高辻家にいる人々を頭の中に思い浮かべた。
お母様は働いたことはないし、家政婦さん達は年配の人ばかり。
でも、お母様よりは的確なアドバイスをもらえそう……?
そう考え、幼い頃から家で働いてくれている家政婦の静代さんに聞くことにした。