私の婚約者には好きな人がいる
「ばれないようにしていたんだけどな」

「え?どうしてですか?」

「カッコ悪い気がしたからかな。高辻(たかつじ)社長はめざといな」

恥ずかしそうに惟月さんは言ったけれど、私は嬉しかった。

「そんなことないです。私も今度、お昼になにか作りますね」

お弁当の中身を考える楽しみが増えたから。
惟月さんは長居をせず、帰って行った。
恭士お兄様と遭遇したくないようだった。

「ありがとう。静代さん」

「楽しかったですか?」

「ええ。とても」

私は部屋に入ると、写真を飾り、虎のぬいぐるみを置いた。
嬉しくてずっとそれを眺め続けていた。
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