私の婚約者には好きな人がいる
言葉を遮り、そう言った私を惟月さんは驚いた顔で見た。

「そうか。俺は親の決めた婚約者は形ばかりのもので、いつか解消されるんだろうと考えていた。二人だけで会ったこともなかったし、顔を合わせても挨拶程度だったからな。てっきり正式な結婚相手が見つかるまでの虫よけなんだろうと考えていた」

「私は……ずっと好きでした」

その言葉を聞いて惟月さんは柔らかく微笑んだ。

「傷つけて悪かった」

私はその言葉には傷ついてはいなかった。
そう考えているかもしれないと思っていたから。

「いいえ。私も惟月さんのことを全然知らなかったんだって一緒にいて気づいたんです」

「それは俺もだ」

私と惟月さんは顔を見合わせて笑った。
不安がないと言えば、嘘になるけれど、惟月さんの口から聞いたせいか、心はだいぶ軽くなったのは確かだった―――
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