私の婚約者には好きな人がいる
帰国
仕事を続けたいとお母様に伝えると、いい顔はしなかったけれど、お父様が反対しなかったおかげで辞めずに済んだ。
惟月(いつき)さんと一緒にいられるというのもあるけど、せっかく仕事も色々なことを任せてもらえるようになってきたところだったので、続けられるのは嬉しかった。
海外事業部に承認印の入った書類を持って行くと、何かあったのか、フロア内がざわざわしている。
なんだか全員が落ち着かない様子だった。
なにがあったの?
そう思って、きょろきょろとあたりを見回しながら中へと入った。

間水(まみず)さん。書類をおいていきますね」

「ありがとう」

気のせいでなければ、他の社員達が間水さんに向ける視線が冷たい。
あんな信頼されていた間水さんがなぜ?
理由もわからず、戸惑っていると後ろから声をかけられ、振り向くと、そこには思いもよらない人が立っていた。

高辻(たかつじ)さん。お久しぶり」

「中井さん!?」

相変わらず、美人だったけれど、半年ぶりに会った中井さんはやつれた様子できつい目をしていた。私を憎々しげににらみつけている―――理由はきっと惟月さんのこと。
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