私の婚約者には好きな人がいる
「あら、帰ってきたの知らなかった?」

「え……ええ」

「婚約者なのに惟月から聞いてないの?」

くす、と中井さんは笑った。
連絡はとっていないと惟月さんは言っていたのに、まるで中井さんは惟月さんと話をして、ここにいるような口振りだった。
どういうことか、わからず、呆然としていると―――

「高辻さん。ちょっといいですか?」

遠くから、様子を伺っていた閑井(しずい)さんが駆け寄り、私を中井さんから引き離し、海外事業部のフロアの外へと連れ出した。

「こっちに!」

自販機の置いてある場所までくると、閑井さんが言った。

「中井さんの言うことは気にしない方がいいですよ。僕達も中井さんがこっちに戻るとは聞いてなかったんです!海外支店にいられなくなって、帰国することになったとは知っていましたが、まさか海外事業部に戻るとは誰も知らなかったんです」

「いられなくなったって、どうしてですか?」
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