私の婚約者には好きな人がいる
「戻ってくるのが、遅いから見にきたら。閑井。婚約者を物陰に連れ込むのはやめてもらいたいね」

「閑井さんは親切で言ってくださったのに、そんな言い方しなくても」

閑井さんをかばうと惟月さんはムッとした顔をした。

「親切って?」

「中井さんが海外事業部に戻られたんです」

「なんだって?」

惟月さんは初めて聞いたらしく、驚き、目を見開いた。

「まさか。間水が?」

「たぶんそうじゃないかと。人事部からは子会社に出向になったと僕達は聞いていたんです」

「俺も人事部から、そう報告を受けている」

「高辻さんにあからさまな敵意を向けていて……。専務から帰ったことを聞いてないか、と言っていたので連れ出しました……」

惟月さんは表情を曇らせた。

「そうか。悪かったな」

「いえ。それじゃあ……」

閑井さんは会釈し、戻って行った。

「とりあえず、俺達も戻ろう」

時計を見ると、もうすぐ昼休みだった。
< 88 / 253 >

この作品をシェア

pagetop