私の婚約者には好きな人がいる
「両親とは別々に暮らしているから。恭士さんに聞かなかったのか。俺の身辺を探らせていただろう?」

「ええ」

「恭士さんは普通の男と咲妃さんを結婚させたいと俺に言っていた」

「普通の?」

「俺と清永の母とは血のつながりがないんだ。容姿でわかるだろう?」

確かに日本人離れをした容姿だと思っていた。

「母親は外国人で父と結婚したが、浮気をして男と一緒に海外に逃げたんだ。それ以来、実の母と会うことはなかったが……。一年ほど前に病気で死んだと聞いた」

「そうですか……」

「祖父は父を再婚させたくてね。それで、父親の再婚が決まると同時に俺を家から出して、この部屋を与えたんだ」

殺風景で必要な家具だけが置かれてあり、本も数冊程度で余計なものがなかった。
惟月さんの執着心の薄さがうかがえた。
けれど、その殺風景な部屋に一枚だけ写真があった。
透明なフレームに入れられた写真は私も持っている。
同じものを。
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