私の婚約者には好きな人がいる
「結婚するまでは手を出さないと高辻(たかつじ)社長と約束した。本当に怖いのは恭士(きょうじ)さんじゃない。高辻社長だ。殺されたくないからな」

「まさか!恭士お兄様ならともかく」

そんな約束をしていたなんて、知らなかった。
お父様は私に怒ったこともなく、大抵のお願い事は聞いてくれる。
一番、優しくて私に甘いお父様が惟月さんを殺すなんてこと、ありえないと思って笑ってしまった。

「……まあ、娘には甘いみたいだからな」

惟月さんは溜息を吐いて、毛布一枚持って部屋から出て行った。
寝室の香りは惟月さんと同じ香りで、その中で眠るのは私だって、本当は緊張するんですと言いたかった……。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


朝になると、惟月さんは眠そうにしながら、言った。
コーヒーとトーストが朝食で、残念ながら冷蔵庫はほとんどからっぽで何も作れなかった。
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