おもいでにかわるまで
明人が実家に帰宅して夜まで本を読みふけっていると母親が部屋に来た。

「先生にお礼言えた?あと明日の夜は?家にいる?」

「しっかりあの時のお礼言えたよ。それから明日は特に出掛ける用はない。」

「晩御飯食べたい物ある?」

「なんでもいいよ。でもまたあのアイスは買っておいてくれない?」

「チョコとバナナの?好きだもんね。」

「初めて母さんが買ってきてくれた時から食べ続けてるね。」

「あー。言ってなかったけど、あのアイスはあの時の明人の彼女がバレンタインにって持ってきたんだよ。かわいい良い子だったね。あの子好きだったわあ。」

「そうなんだ・・・。」

「きっともう良い人と結婚してるよね。」

「だろうね。あのさ。言った事無いけど、予備校代とか学費とか相当したよね。ありがとう。」

「それお父さんに言いなさいね。昔明人が1ヶ月閉じこもった後、急に医学部に行きたいなんて言い出して、6月から予備校に通い出しても私達は本気なのか信じられなかったんだからね。」

「24時間毎日勉強したね。」

「これからもだよ。まだ何も始まってないからね。来月から頑張って。そうだ、何かプレゼントしなきゃね。ねえ、前から気になってたんだけど、その腕時計何年使ってる?そろそろ更新したらいいんじゃない?」

「いや、これは・・・。母さんとか、また無神経に沢山の大事な人を泣かせないように自分を戒めているというか、俺への暗示みたいなもん。いつか彼女が出来たら新しいのプレゼントしてもらうよ。」

「そう?一応彼女は欲しいの?」

「全然。あ、来週が堀田の結婚式だからよろしく。」

今日は別れた彼女の匂いが多くて明人は嫌悪した。でも嫌悪するのは彼女にではない。とっとと美化されれば良かった。
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