おもいでにかわるまで
「あの子アメリカ行くの?彼氏と?」

「彼氏ではないらしいよ。一人で立てるようになるまで恋愛しないとか、昔は面倒な事言ってたな。まあただの友人って訳でもないんだろうけどね。」

「うん・・・。ちゃんと笑ってる?」

「もちろんだよ。何年経ってんだよ。」

「そうだよね。あのさ、俺達別れた後一度だけ関係を持ったんだ。深く傷付けたと思う。俺最低だった。俺だってそれがなかったらもっと簡単に好きな人が出来てたと思う。」

「考え過ぎだよ。」

「そうかもね。」

「あのさ、俺の話していい?」

「うん。」

「ずっと昔の話。一途にさ、俺の事を想ってくれている子がいたんだ。何年も。」

明人はその話に心当たりがあり、複雑な気持ちになった。

「良い子だったんだけど、どうしても恋愛対象にならなくてさ、それなのに少し触れたりして思わせぶりな事もした。別に好かれているのは嫌じゃなかったから。ただ何年経っても告白もしてこないし、正直気持ちが重くなってきてさ。そんな時にね、他に男が出来たって言われた。俺さ、それ聞いてどう思ったと思う?」

「さあ・・・。後悔したとか?」

「全然。肩の荷が下りて心からホッとしたよ。俺、最低だろ。」

「別に・・・。」

「俺らの学校って純情で良い奴ばっかだね。大学行って働いてわかったよ。世の中不純で溢れている。」

「そうだね。」

「二股とか浮気、不倫、駆け引きに騙し合い、多過ぎだよね。」

「うん。麻痺してくる。」

「そんなだからさ、せめて俺の夢の中だけでも、純情な奴らのハッピーエンドがあってもいいじゃん。」

「何だよそれ。」

勇利はははっと白い歯を見せて笑った。

「勇利またな。奥さんと子供によろしく。」

「おう。明人もシンガポール遊びに来てよ。」

「そうだね。しばらく時間ないけどね。」

「確かに。」

「あのさ、勇利の思うハッピーエンドには当てはまらないかもしれないけどさ、あの子にはありがとうって思ってる。」

「うん。それだけで充分なんじゃない。」

「俺はね、ふった人に対して幸せになって欲しいって願うのは今まで違うと思ってたんだ。だったらお前が幸せにすればいいだろって。」

「自分を楽にする魔法の言葉に過ぎないからね。」

「勇利に会えて良かったよ。皆にも。嫌な事まで思い出すから過去の話をしたり、その時の歌を聴いたりも出来なかったけど、俺が思うより7年って長かったんだってわかった。」

「そっか・・・。なあ、指輪、俺がなんとかしておいてやろうか?」

勇利は明人の望む事は何かと模索した。
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