おもいでにかわるまで
「返事を聞かせて欲しい。また僕の部屋で話す?」

「うーん。もうすぐ今月も終わりだしなんだか疲れたから帰る。」

「お疲れ様。ほんと今月は仕事ハードだったよね。」

「うん。J.J.私はアメリカには一緒に行かない。だからこれからもお互いに頑張ろうよ。」

「僕、アメリカで必ず有名になるよ。凄い発見をして研究者として、科学雑誌にも載ってビッグマネーを掴むよ。僕はそれをミズキに一番近くで見ていて欲しいんだ。」

「まるでプロポーズみたいだね。そもそも恋人同士でもないのに。さては女の子皆に言って回ってるでしょ。」

「日本女性は繊細で華奢で美しいもの。抱き締めると折れてしまいそうで虜にもなるさ。だから美しいと声に出すのは当たり前だよ。」

「凄い理屈。」

「それに本気で愛してると伝えたら、ミズキは僕から逃げて行っただろ?だからわざと良い関係を保っていた。そうすれば一番近くにいられると思って。そして本当に僕はミズキのそばにいた。」

「何度も支えてくれたね。」

「ミズキを初めて見た時は女神だと思ったよ。」

「あはは。そんなわけないじゃん。視力が悪いんだよJ.J.。」

「僕は今、真面目に話をしている。誤魔化すのはやめて。」

「ごめん・・・。」

「僕がミズキに沢山掛けた愛の言葉は全部が冗談に聞こえていたと思うけど、違うから。全部が真実だった。でも僕は両親やきょうだいのいる母国を愛している。そしてミズキが望むなら今すぐ結婚しても構わない。だから僕とアメリカに行こう。」

水樹の胸はいっぱいだった。

「J.J.私は結婚願望がないの。恋人も必要ないの。ずっと恋愛をどこかに片付けて生きてきて、だからこそ上手に生きてこれたし満足してるし毎日嬉しくて仕方がないの。」

「意地張るなよ僕にはわかるよ。ミズキは誰よりも弱い。一人のつもりでも、誰かがそばにいないと駄目で、実際に僕の手を握ったミズキの手は小さかったじゃないかっ。」

「あのね・・・。私が働いて7年なの。あと1年ここで働いたら受験資格が手に入るんだ。それに私は四季のある日本の山や里や川が好きだから、これからもどこかに美しい自然を残していきたい。」

始まりはどうであっても、水樹は充足感を得て働いていたのだ。
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