おもいでにかわるまで
「あっ、はっ、あっ、せがわさん・・・。」

はあはあと苦しそうに息をする水樹に明人は余計な感傷が吹っ飛んだ。

「あっ、えっ、だ、大丈夫?」

どんな話し方をしていたのかさえ風化していた。

「ふう、ふう、ふう・・・。ごめんね・・・。」

水樹はその一言がやっとだった。

「何を謝るの?いつか会っても平気になれば、謝ろうとしてたのは俺だよ。」

「ううん、違う。今ならわかります。私達は若過ぎました。ぶつける事しか出来なかったです。はあはあ・・・。」

「大丈夫?もしかして・・・。」

明人は自分のせいだと瞬時に悟り、胸をえぐられた。

「ごめんね・・・。ほんとに・・・。俺が治したい・・・。」

「え・・・?」

そして言葉が繋がり出すと水樹の様子も落ち着いてきた。

「大丈夫?少し座ろう。」

石段に誘導されて明人の左側に座り、汗を拭くように明人が差し出したハンカチを受け取った。

「えっ、えっ、えっ?これって・・・なんで・・・?」

明人は困惑し、水樹の目の前は真っ暗になった。

最低だ。

こんなもの指にはめていたら気持ち悪いよ。

もう嫌だ。早く消えたい。でもこれ以上は傷付けないで欲しい。私死んでしまうよ。

ようやく水樹の呼吸も安定してきた所だったのに、また取り乱してしまい涙がこぼれた。

あっ・・・。とその時、水樹が持っていた明人のハンカチで明人は涙を拭いてあげ、その懐かしい感覚に水樹は19歳の頃につれもどされそうになった。でも切なくなるからもう止めて欲しかった。

「こんなにさせてしまって本当にごめんね。泣かないで。ね、大丈夫だから。」

何が?と水樹は明人の目を見た。

「ほら、俺も・・・。」

「えっ・・・?」

これっ・・・?

忘れない。見せられた明人の左手首には、別れる前に水樹がプレゼントしたチープな腕時計が装着されていたのだ。

「なんで・・・?」

「この7年間、電池を交換しては一度も時を止めずにいたんだ、俺達の。気持ち悪いよね、俺。」

水樹は首を横に振った。

それから明人は上着の胸ポケットから取り出すと、水樹の左手のおもちゃの指輪を外して、代わりに水樹が失くしたシルバーリングをはめた。

えっ?なんでっ?どうしてこれがっ?さすがに突然過ぎて水樹の頭がグラグラ回転する。

「一生幸せにする、義務があるんでしょ?」

「7年で私達は変わってしまってるよ。知らない事が多過ぎるよ。危ないよ。無理だよ。あの頃とは違うんだよ。」

手に明人のハンカチを持っていても、水樹の涙は止まらなかった。

「でも・・・ごめんなさい。ずっとあなたが好きでした・・・。明人・・・。」

「うん。」

そして水樹は明人の胸に帰ってきた。
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