お嬢様は恋したい!
「ほれ、チケット。」

渡されたチケットを入口のスタッフに渡すと日付印が押された。

ワクワクしながら中に入ると、陸斗さんに肩を抱かれ、後ろに鈴木主任を従えるというよく分からない状況のまま、水槽を見て回る。

陸斗さんは、エスコートに慣れたふうで、かっこいい大人の男性というか王子様か王様って感じ。

鈴木主任は騎士かな?

私は、どちらかのお姫様になれるのかな?

ふたりとも、お姫様はお姫様でも隣国のお姫様に接待で付き合っている感が否めないのは、気のせい?

鈴木主任が、私のことを女性として見てくれないのは分かるけど、陸斗さんの態度が付き合っている感じにならないのは、鈴木主任が横にいるせいだけなんだろうか。

「水族館に来るの、幼稚園の遠足以来です。」

変な思考にはまらないように水槽の中の魚に意識を戻した。

「へぇ、デートで来なかったの?」

「デートなんて、今日が生まれて初めてですから。」

「そっか…」

陸斗さんは、そう言うと鈴木主任の方を一度見ると内緒話をするように私の耳元に口を寄せた。

「あいつ撒いて、ふたりで回ろう。」

「え?」

言葉の意味を理解しきる前にほの暗い水槽の影にある窪みのような場所に押し込まれた。

何?と身構えたが、窪みになっていた場所は、下から水槽を覗ける場所だったらしく、さっき歩いていた場所よりも明るかった。

上に上がって行く泡が光の反射でキラキラときれいだし、首が痛くなるのも忘れて、ゆったり泳ぐマンタの大きな姿を目で追いかける。

岩場の影に隠れている魚たちが、のんびりと泳いでいるのを見ているとこちらものんびりとした気分になった。

「いいでしょ?水槽、独り占めっぽくて。」

陸斗さんの声に、横にいたことを思い出した。

デート中に隣にいる事を忘れるってダメだなぁ、私。

「はい、でもいいんですか。鈴木主任…」

「あいつ?いいよ。少しは自覚させた方がいいから。」

陸斗さんの言葉の意味が分からないが、上司と部下の立場って意味だろうと結論付けて、しばらく魚たちに魅入られていた。

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