お嬢様は恋したい!
「短い間でしたが、高橋さんには大変お世話になりました。次の仕事でも頑張ってください。」

課長の挨拶で始まった送別会は、最初こそ私が主役のようだったが、途中から気楽な職場の飲み会と化した。

鈴木主任が到着したのは、みんなが席を適当に動き始めた頃だった。

「遅くなりました。」

「鈴木くん、こっちよ。」

松田さんに呼ばれて、お誕生席に座っていた私の反対側の一番隅に鈴木主任が座った。

そんなに遠いと話したりもできない。

「ねぇ、結局、高橋さんは彼氏できたの?」

島本さんに横を陣取られ、ビールを注がれる。

そういえば好きな人が出来たからと合コン断ったんだった。

「まだです。でも告白する気になってます。」

「ふーん。そうなんだ。それって川田さん?」

「え、ち、違いますよ。」

「あの時、随分仲良さげだったし、怪しいなあ。」

島本さんは、私と鈴木主任がご飯に行っていたのは、仕事の延長で行動を共にしているとしか思っていなかったようで、全く気がついていなかったようだ。

言葉を続けられずに得意じゃないけど、ビールを一気に飲む。

口の中に苦味が広がり、やっぱり好きじゃないとお子様口の私は思うことで気持ちを落ち着かせた。

なんとか島本さんの追求を逃れ、ホッとしてから鈴木主任の方を見ると課長に捕まりグイグイ飲まされているようだ。

見た目はあまり変わらないけど、結構酔っているようで、帰りに告白してもちゃんと対応してもらえるか少し心配になって来た。

鈴木主任は私と違い、これからも働いていくんだから私の告白で周りの人に何か言われたりしたら申し訳ない。

ふたりだけになるタイミングはないかもしれない。

やはり黙って去ろうかな。

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