お嬢様は恋したい!
私にとっても川田さんは、さっき縋ろうなんて一瞬ばかなことを考えてしまったとは言え、家に出入り自由な身内感覚だから、部屋に通すことに抵抗はなかった。

「紅茶でよろしいですか。」

「ありがとう。」

川田さんって、なにげに執事出来そうなんだな。

「用件はこちらの書類をお持ちしたんです。」

封筒を開くと私名義の通帳と印鑑が目に入った。

「これは?」

「社長と会長からかわいそうなことをしたとしばらくの生活費に使うようにとのことです。それから笠松様との話も終わりました。」

「どうなった。」

「笠松様側からは、お嬢様が体調を崩された事を心配しつつもご縁がなかった事を残念に思っているとのお返事がありました。」

「茜ちゃんは?」

「そちらは年齢的に厳しいと破談になりました。」

「そう。」

「それで先程の話ですが、父親はあいつなんですよね。」

「もう川田さんの中では確定なんでしょ。」

「お嬢様は、そんなに軽い気持ちで男性と付き合う性格でもないし、時間もなかったはずです。あの日、私がけしかけたのも悪かったですかね。」

「川田さんのせいじゃないわ。」

「せめてあいつにお嬢様の状況を伝えましょうか。」

「いいの。彼には彼の事情があるから。この子を授かっただけで幸せよ。」

川田さんは、ひとつため息をつくと立ち上がった。

「そろそろ帰ります。また様子を見に来ますから、お大事に。」

「あ、ありがとう。」

「メリークリスマス。」

そう言って川田さんは帰って行った。

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