お嬢様は恋したい!
主任の鈴木さんは、長めの髪をしっかりとワックスで固めて銀縁眼鏡をかけたちょっと怖そうな感じ。

「あ、あの…高橋です。よろしくお願いします。」

「時間がもったいないので、こちらへ。」

席を案内され、座ると目の前には書類の山。

「前の人が辞めてから、急ぎ以外の書類が溜まっているので処理をお願いします。」

えっ、説明それだけ?

処理の流れや使用するソフト、提出先とか教えてくれないの?

「私もやる事があるので、わからない事はその都度、聞いてください。」

「あの。簡単な書類の流れだけでも教えてもらえますか。」

鈴木主任は、めんどくさそうに小さなため息をついた。

えーっ。そこはため息つくとこじゃないと思うけど。

「あぁ、高橋さんは、うちの会社初めてなんだ。それじゃ、これ。」

渡されたのは、事務のフローシート。

こんなのあるなら、最初に渡してくれたら良かったのに。

言い返そうとした時には、鈴木主任はもう自分の席で仕事を始めていた。

一心不乱に書類を片付けているといきなり肩を叩かれた。

「高橋さん、もうお昼だよ。」  

ピクリとして振り返ると同じ営業事務(一応、向こうは正社員だけど)の女性社員がふたりで立っている。

「あ、まだ片付かないですけど。」

「鈴木主任の仕事は、急がないから社食行きましょう。私は浅田夢香、こっちは島本つぐみ。よろしくね。」

私より少しお姉さんなふたりに案内されて、社員食堂にたどりついた。

「ここは社員証で入室すれば良くて、全部タダなの。」

「福利厚生なんだけど、社長が若い頃、苦労したから社員には好きなだけ食べさせてあげようって考えらしいわよ。」

「すごいですね。」

私的にもすごく嬉しい制度だわ。

だってお昼はもちろん、残業すれば夕食もタダなんて!

あと半年、素敵な恋愛をするためには、服だってコスメだって妥協出来ない。

私の辞書には自炊って言葉はないから、食費が削れるなんて思ってもみなかった。

これで誘われたら飲み会も参加できるかも。

しかも工場の社員まで同じ社食を使うとあって、隣り合えば違う課の人とも知り合いになれる。

黒川社長には、足を向けて寝れないわ。

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