お嬢様は恋したい!
お盆に載せ、お祖母様のいる和室に声をかける。
「失礼いたします。」
障子を開け、室内に入るとグレーのニットに黒のスラックスの背中が見えた。
「あら、ちょうど良かったわ。かっちゃん、香子ちゃんがお茶を持って来てくれたから、いただきながらお話しして行くといいわ。私は少しはずすから。」
お祖母様、いきなりふたりにしないで欲しいのに。
「どうぞ。」
目を合わせないようにお茶とお茶請けを並べてから改めて畳に三つ指をついて挨拶をした。
「お久しぶりです。縁談をこちらの都合でお断りして申し訳ありませんでした。」
「かお、久しぶり。顔を上げて。俺の方も中途半端な事をして悪かったんだから、気にしないで。それより体調は、もう大丈夫なのか。」
「は、はい…」
顔を上げた瞬間、お互いの顔を見て固まった。
「香?」
「一誠さん?」
「な、なんで?」
「えっ、お兄ちゃんは、かずまさんだってお祖父様が言っていたけど、なんで一誠さんなの?」
「そっか…いっせいって言うのは、俺のあだ名、本当は笠松一誠って言うんだ。学生時代、同級生にかずまが他にもいたから、陸も含めみんないっせいって呼んでいて。普通に香もそれに倣って呼んでいると思ってた。」
「鈴木は?」
「琴子ばあちゃんは、鈴木琴子だよ。陸の会社で働く間、笠松なんて目立つ名前で働けないから、ばあちゃんちの苗字名乗っていたんだ。
それより香がかおなのか?」
「うん。高橋香は家を出てひとりで働くために使っていた名前でホントは高階香子なの。」
一誠…かずまさんが溜息をついたあと、クックッと笑い出した。
「香を好きになって、婚約解消するつもりだった相手が同一人物って…何やってんだろうな。」
「えっ!?」
「俺に幼馴染の婚約者がいるって話…香の…いや、かおの…ややこしいな。香子でいいか。お前の話だったんだよ。俺の前からいなくなったあの日、香に待っていて欲しいと伝えて、香子との婚約解消したら、香にプロポーズするつもりだったなんてな。」
「失礼いたします。」
障子を開け、室内に入るとグレーのニットに黒のスラックスの背中が見えた。
「あら、ちょうど良かったわ。かっちゃん、香子ちゃんがお茶を持って来てくれたから、いただきながらお話しして行くといいわ。私は少しはずすから。」
お祖母様、いきなりふたりにしないで欲しいのに。
「どうぞ。」
目を合わせないようにお茶とお茶請けを並べてから改めて畳に三つ指をついて挨拶をした。
「お久しぶりです。縁談をこちらの都合でお断りして申し訳ありませんでした。」
「かお、久しぶり。顔を上げて。俺の方も中途半端な事をして悪かったんだから、気にしないで。それより体調は、もう大丈夫なのか。」
「は、はい…」
顔を上げた瞬間、お互いの顔を見て固まった。
「香?」
「一誠さん?」
「な、なんで?」
「えっ、お兄ちゃんは、かずまさんだってお祖父様が言っていたけど、なんで一誠さんなの?」
「そっか…いっせいって言うのは、俺のあだ名、本当は笠松一誠って言うんだ。学生時代、同級生にかずまが他にもいたから、陸も含めみんないっせいって呼んでいて。普通に香もそれに倣って呼んでいると思ってた。」
「鈴木は?」
「琴子ばあちゃんは、鈴木琴子だよ。陸の会社で働く間、笠松なんて目立つ名前で働けないから、ばあちゃんちの苗字名乗っていたんだ。
それより香がかおなのか?」
「うん。高橋香は家を出てひとりで働くために使っていた名前でホントは高階香子なの。」
一誠…かずまさんが溜息をついたあと、クックッと笑い出した。
「香を好きになって、婚約解消するつもりだった相手が同一人物って…何やってんだろうな。」
「えっ!?」
「俺に幼馴染の婚約者がいるって話…香の…いや、かおの…ややこしいな。香子でいいか。お前の話だったんだよ。俺の前からいなくなったあの日、香に待っていて欲しいと伝えて、香子との婚約解消したら、香にプロポーズするつもりだったなんてな。」