お嬢様は恋したい!
2人で訪れたのは、会社から歩いてすぐのラーメン屋だった。

私はラーメンを食べた事はあるけれど、カウンターだけの先に食券を買う店は初めてで、ついキョロキョロしてしまう。

「ラーメン屋、初めてとか言わないよな。」

「こ、こういう店は初めてで…す。」

「そっか…大変だったんだな。」

鈴木主任は、私が貧乏過ぎてラーメン屋に行った事もないと思ったらしく、優しく頭をポンポンしてくれた。

ダメだよ。

この人には、姫と言う最愛の婚約者がいるんだし、あくまでも上司として私に優しくしてくれているんだから、ときめいちゃダメ!

「主任は、なんで私に優しくしてくれるんですか?」

「俺は、ちゃんと仕事をするやつは認めるよ。いままでの派遣さんは、しゃべってばかりで手が動いてなかったり、こっちの希望レベルまでできてなかったり、あげくに仕事中に誘ってくるからさ、怒りたくもなるだろ。
その点、高橋さんはこちらの依頼以上の仕事してくれるから。」

「じゃあ、感謝されついでにいっぱいご馳走してもらえるように頑張ります。」

私はちょっとだけ揺れた気持ちに蓋をするように鈴木主任に戯けて笑ってみせた。

「美味しいっ。」

「だろ?ここのラーメンが、俺のイチオシ。」

さっきまでの余裕ある笑顔じゃなく、ちょっと子どもみたいな笑い方。

ふと初恋のお兄ちゃんを思い出した。

あのお兄ちゃんが、大人になったら、主任みたいな感じになっていたりして…

「私も余裕がある時は、またここへ来たいです。」

「他のやつには内緒な。」

「はい。」

他の人には内緒なんて2人だけの秘密が出来たみたいで嬉しい。

いやっ。べ、別に主任に惹かれてなんかないからっ。

「それでもデートとかで彼氏と来るならいいですか。」

「あのな、普通デートでラーメンはないだろ。」

「そうですかね。オシャレなダイニングより、よほど距離が縮まると思ったんですけど。」

「そっか。」

鈴木主任は微妙な顔をしていた。

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