仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
翌午前の便で私は台北に戻った。
私のマンションは台北101の近くにある四階建てのマンションだ。賃貸でそれなりに家賃もかかるけれど、セキュリティはしっかりしている。なお、台北101は商業施設と展望台のついた高層オフィスビルである。

荷物を置き、メールで仕事をチェックしてから、美芳の楊家にお邪魔した。今後のことを相談し、家族の夕食にまぜてもらうことになっているのだ。
楊家のリビングで美芳と向かい合って打ち合わせをする。隣は会社の事務所に直結していて、反対隣はキッチンだ。おばあちゃんが家族の食事を作っている。

「結局旦那にほだされたんでしょう」

美芳は景気よく笑っている。私が台湾の住居を引き払い日本中心の生活にする理由を美芳はそう解釈したらしい。私は思い切り顔をしかめて答えた。

「違う。仕方なくよ」

答えながら何が「仕方なく」なのだろう、と自分で思う。風雅の傍にいようと決めたのは私自身だ。
風雅の強さの奥に見える危うさは高校時代から感じていた。だけど、私は風雅のメンタル、フィジカルの強健さを信じていた。私がいなくても大丈夫、そう思ってきた。

でも、そろそろ向き合うときが来たのかもしれない。逃げるつもりで無責任に続けてきた婚約関係を夫婦関係に変えたのだ。風雅が私にいてほしいと言うなら、隣にいてもいい。風雅に一番近い人間として。

「いいじゃない」

美芳は笑う。

「家族は大事よ。最後に頼れるのはやっぱり家族。親が若死にと大病じゃ、旦那は寂しかったんじゃないの? キホみたいに生命力の強そうな女に惹かれて当然。すぐに死なない頑丈な嫁と子がほしいのよ」

歯に衣着せぬというか、なんともざっくりした美芳の見解。私は彼女のこういうところが好きだったりする。
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