仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
台湾でのひと月は瞬く間に過ぎた。

まず、私は現地の関係者に拠点を日本に移す旨を伝えた。大学に顔を出し久しぶりに教授に会い、仕事の関係者にも直接挨拶に歩いた。
今後ほとんどの仕事はメールや通話でやりとりができる。その他、煩雑な現地対応は美芳がさばいてくれる約束になっているし、どうしても現場に赴かなければならないものは都度台湾に来ることにする。
やはり頻度としてはふた月に一度か二度は渡航しなければならないだろう。だけど、風雅が望む日本中心の生活は成る。

同時にマンションを引き払う手続きもした。ほとんどの家具が備え付けの賃貸だったので、処分するものはわずかだ。
荷物は整い次第日本に送り、帰国一週間前にはマンションを引き渡し、楊家に移り住んだ。
楊家は家族で内装会社を営んでいるが、戦後の経済興隆期に商売を成功させたのでこのあたりではなかなか羽振りがいい。古びた鉄筋の会社部分も裏手の古き良き台湾家屋もお金持ちの家には見えないけれど、台北のど真ん中にあって敷地は広い。

いよいよ明日には日本に帰国となった七月の中旬。
蒸し暑い昼下がり、美芳の事務処理を手伝っていたらスマホが鳴った。
風雅からの着信である。
風雅はこの一ヶ月、まめまめしくメッセージを送ってよこしたけれど、そのどれもがどうでもいい感じのものだった。
【昼ごはん美味しい】とか【テニス見た?】とか【今日、すごく眠い】とかそういう類いのもの。【会いたい】【愛してる】みたいな恋人感のあるメッセージは一度たりとてなかった。いや、私も期待していたわけじゃないけどね。
こういう距離感だと、私が風雅の気持ちを十年間信じていなかった理由がわかると思う。
ともかく、着信はひと月で初だ。
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