仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「はいはい」

アイスコーヒーを片手に電話を耳に押し当てる。

『希帆、元気? 今大丈夫』
「うん、元気。そっちは昼休み?」
『今、松山空港に着いた』
「はあ?」

松山空港は台北市の空港だ。この男、何を言っているの?

『明日、帰国でしょ。待ちきれなくて、台湾に迎えに来ちゃった』
「迎えに来ちゃったじゃないわよ! 仕事は?」
『平気、平気。どこに行けば希帆に会える? お世話になってる楊さんのところ?』

美芳の話は以前したけれど、まさか場所まで把握済み? そのへんは話した記憶ないけど、あなた私のことどこまで調べてるのよ。

「ちょ、ちょっと待ってて! 今行くから」

私は美芳に断り、MRTという地下鉄で松山空港を目指すこととなった。



「希帆、久しぶり~」

松山空港の外、MRTの乗り換え口で風雅は待っていた。

「久しぶりじゃないわよ。どうして」
「言ったでしょう。待ちきれなくて迎えにきた」

ひと月ぶりに会う風雅は精悍に笑う。ああ、風雅だ。彼の笑顔を見たら、困惑より笑えてしまった。風雅がいる。私を迎えに来てくれた。

「それでわざわざ……もう、先に言ってよ」
「言ったら希帆『やだ』って言うでしょ。希帆が長く住んだ街で、デートできたらいいなって思ったんだ」

そんな突拍子もないところにも安心した。風雅の会いたかった気持ちと、私の中にもある再会を喜ぶ気持ちが、ふわっととろけて交わった感じがする。
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