仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「希帆、つめたぁ」

冷たくないわよ、デートしてるじゃない。そんな言葉の代わりに風雅の手をぎゅっと握り返した。
そういった些細な仕草もこの男はちゃんとキャッチする。嬉しそうに笑い、私の額にキスをした。

「ちょっと、いきなりやめて」
「汗の味する。しょっぱいね」
「あったりまえでしょ!ここは台湾よ、日本より暑いし、今は真夏で汗も……」
「はいはい、うるさーい。希帆ちゃん、うるさーい」

手を繋ぎながらこんなやりとりをする私たちは浮かれた日本人カップルの観光客に見えるんだろうな。


よく行く台湾ドーム近くの定食屋で軽く食事を取り、スイーツを売っているスタンドでかき氷を食べた。台北市内にはあちこちに甘くて冷たいものが食べられるカフェやスタンドがある。

腹ごなしに大きな公園を散歩し、楊家に挨拶に行った。
楊家のみんなは風雅を見るなり、格好いいだのお金持ちそうだの、浮気の心配をしたほうがいいだの好き勝手に言っていたけれど、風雅が流暢な中国語で挨拶をすると全員が「やばい、言葉通じてた」という顔をした。こういうわかりやすい楊家の人たちが私は好き。
お茶とお菓子をいただいて、夕刻に楊家を出た。風雅の希望で有名なお寺を見て、夜市を回るためだ。

「さっきの楊家の人たちもそうだけど、思ったより俺の北京語が通じないんだよね」

観光客に混じり、お寺の門をくぐって風雅が言う。
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