仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~

参拝と見学を終え、賑わうお寺を出た。都心ど真ん中にあるお寺なので、大きな道路を挟んで四方は歓楽街。
夜市と呼ばれる屋台群はあちこちの通りでやっているけれど、風雅は初心者なので一番メジャーなところに連れて行こうか。そんなことを考えていると、耳にバイブレーションの音が聞こえた。

「風雅、スマホ鳴ってない?」
「あー、うん。会社だね。休暇って言ったのになあ」
「どうせ、部下の人たちに無理いって出てきたんでしょう。電話くらい出なさいよ」

風雅は、はぁいといい返事をし、私から少し離れて電話をし始めた。
雑居ビルの陰で、私は汗を拭う。すると若い男が三人、私に話しかけてきた。

「なにしてるの」

見た目と酔ったようにふわふわした口調で、あまりいい手合いじゃないことはすぐにわかった。
立ち止まった場所がよくなかった。治安の良い街とはいえやはり女性ひとりでうろつくには適さない場所はある。この有名な観光地であるお寺でも、裏手の通りはまさにそういうところだ。

「そこの店で飲むんだけど、一緒においでよ」

無視をしていたら手首を掴まれた。振り払おうとするけれど、力が強く果たせない。キッと睨みつけ、毅然と言う。

「離して。暇じゃないの」
「そんなこと言うなよ。あれ? あんた日本人?」

馴染んだとはいえ、私も完全な台湾國語じゃない。言葉のニュアンスで外国人なのはわかってしまうだろう。

「観光客ならおもてなししないと」
「楽しい経験して帰んなよ」

男たちが下卑た笑い声をあげる。
あ、と私は思った。それは男たちの向こうの人影が視界に入ったからだ。
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