仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
「何やってんの? おまえら」

ぬらりと壁のように背後に立った風雅が日本語で言い、私を掴む男の手首を握った。
まずい、と思ったのは風雅の顔に過った凶暴な気配だった。
次の瞬間、男が悲鳴をあげうずくまる。風雅が凄まじい力で男の手首を握りしめたのだ。
残りのふたりは狼狽したが、すぐにひとりが「ヘイ」と風雅の肩に手をかけた。しかし風雅は、空いた左手でその男の腕も容易に捻じりあげ、地べたに引き倒してしまった。右手はまだ最初の男の手首を締めあげたままだ。

「風雅、もうやめて。やめなさい」

私の制止の声に反応し、風雅がちらりとこちらを見下ろした。その目は冷徹で畏怖さえ感じさせる瞳だ。
しかし、私を認識するとすぐにいつもの笑顔に戻った。ぱっと男たちを解放し、慄く連中に親切にも綺麗な発音の北京語で言い放った。

「俺の彼女なんだ。触らないで」

男たちが転がるように逃げ去っていく。
このあたりではまあ珍しくもないいざこざかもしれないが、多少目立ってしまった。私は風雅の手を引っ張り、タクシーを止めた。

「急いで。逃げるわよ」
「大丈夫だよ、あんな手合い」
「ああいう連中の後ろには怖い人たちがいるのよ。このあたりを仕切ってる」

風雅がくすくす笑いながらも、おとなしくタクシーの後部座席に乗り込む。

「そういう人たちほど礼を尽くせばわかってくれるもんだよ。まあ、今回は注意しただけだし、何も起こらない」
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