仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~
その週の土曜日のこと。風雅が休みなので、連れ立ってお父様の病院へ向かった。
手術は来週。フリーランスで時間の融通がきく私が、病室で待機する予定だ。

病室に入ると、背の高い若い男性がいる。
挨拶をする前にわかった。左門優雅さん……風雅の三つ下の弟さんだ。

「兄さん、久しぶり。……希帆さん、ご無沙汰しております」

背筋を伸ばし、ぴしっと頭を下げる優雅さん。
会うのは十年ぶりくらいだ。婚約が決まる前のパーティーで顔を合わせたとき、風雅の隣にいた彼はまだ中学生だったはず。
大人になった優雅さんは、風雅とよく似た面差しをしている。

「お、優雅。最近こっち手伝ってくれないから、俺大変なんだけど」
「兄さん、ひとりでできるでしょう。あなたの優秀な部下たちを頼ってください」
「つめたーい」

風雅のふわふわ軽い雰囲気とは真逆といっていい空気。怜悧ともいえる表情。顔や背格好が似ているから余計に不思議な感覚だった。
優雅さんもお父様の手術前に会いに来ているのだろう。確か今は別な会社にいるって聞いたような。

「兄さん、希帆さん。ご結婚おめでとうございます。直接のお祝いが遅くなりましてすみません」
「いえ、ありがとうございます」
「住まいが地方なもので、会いにくるのが遅くなってしまいました」

入籍直後に大きな花束が届いたっけ。確かに直接はずっと会えていなかった。お仕事先は地方なのか。
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