クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
あの家元は、思い出しても冷や汗が流れるくらい、聡明で厳格な女性だった。

俺のことは、最初は若輩者と扱い馬鹿にすらしているようだった。
どうにかこうにか新規事業に賛同いただけることにはなったが、俺を認めたというよりかは俺の若さと熱意に妥協してくれたという方が合っているような気がした。
だから、この扇子がただの好意で贈られたものであるはずはない。

恐らく、家元から俺に出された最終試験だ。

この扇子に込められた家元の真意を見抜きそれに応えた形の返礼をしなければ、家元はすぐにでも新規事業への賛同を取りやめてくるだろう。

扇子を見つめる芽衣子の目は、真剣な色を浮かべていた。

「美しいですけれども、この扇子にはもっと深い送り手側の意図も込められているようですね。専務への期待感、でしょうか。贈り物はきちんとしたものを選ばないといけませんね」
「どうしてそう思うの?」

さらりと答えた芽衣子に、俺は思わず扇子をぱたんととじて身を乗り出した。
< 114 / 232 >

この作品をシェア

pagetop