クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
怖い…。

細腕のひとつでもへし折ってでも私を従属させる―――そんな狂気めいた横暴さが手首からひしひしと伝わってくる。

脚を踏ん張って振り放そうとするけれど、びくともしない。

「離してください…! 誰か…!」

最後は悲鳴になっていた。
けれど、古いアパートが並ぶだけの暗い夜道。通行人すらいない。
北村の冷ややかな目だけが、薄暗い街灯を受けて冷たく光っている。

「芽衣子ちゃん!?」

そこへ、聞き慣れた声がしたかと思うと、亮子さんが姿を見せた。

ただならぬ様子に気付いたようで、駆け寄ってくる。
ほっとする―――けれども、亮子さんにまで乱暴されては…!

「って!」

という心配は杞憂だった。
さすが亮子さんは、駆けてきたのを助走にして飛び上がると、北村の足を問答無用でヒールで蹴りつけたのだ。

思わず北村が離した私の手首をすかさず掴むと、亮子さんは車まで一目散に走る。

猛然と追いかけてきた北村に捕まる前に、どうにか車に乗り込むことができた。

ロックをして急発進した車のサイドミラーには、地団太を踏んで悪態を吐いている北村が映っていた。





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