クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
待ちあぐねて眠ってしまったのだろうか。
抜き足差し足で近付いて、専務の寝顔を見守る。
少しネクタイを寛げ、いつもはきちんとセットしている髪を無防備に鼻にかけて規則正しい寝息をたてている姿は、リラックスしているのに見惚れるくらいに凛としていて魅力的だった。

一夜を過ごしたのに…専務の寝顔を見たのは初めてだということに気付いた。
初めての体験に私はすっかり疲れ切って寝入っていたから。

こんな素敵な人と夜を共にしたなんて―――と信じられないような思いを感じながらも、けして虚構ではないあの夜の経験を思い出してしまって…きゅっと胸が締め付けられる。
そして同時に、言葉にし難い愛おしさが込み上げてくる。

寝顔には少し疲れた色が浮かんでいた。
新規事業の準備が大変なのかもしれない。

甘い胸の締め付けは、罪悪感の苦い痛みに変わる。

…この上、私の縁談のことで余計に大変な思いをさせるなんて…。

私は、この人と結ばれて、本当にいいのだろうか…。
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