クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
『芽衣子さんと出会った。彼女は素晴らしい女性よ。一見たおやかだけれど、その内には決して折れない凛とした強さを秘めている。あの人と初めてお会いした時、私思ったのよ。『ああこれでやっと雅己に綾部屋を任せられる』って』
『…母さん』
『新規事業など、どうとでもなります。たとえ何年滞っても私はいいのです、実現さえするなら。でも、あの人だけは、芽衣子さんだけはけして失ってはだめです。今、しっかりと、その手で守り抜きなさい。いいですか雅己』

母の言葉を胸に宿しながら、俺は岸議員を真っ直ぐに見つめた。

「『おまえにはあの人が必要なのよ』。母はそう言って許してくれました。芽衣子さんは母も認める素晴らしい女性です。私にはむしろ、もったいないくらいだ。でも、だからこそ、生涯を懸けて大切にしようと己に誓ったのです。私には芽衣子さんが必要なのです。彼女を必ず幸せにします」

岸議員の表情は変わらなかった。
厳格な顔つきでいるその脳裏には『しょせんは青二才の戯言』と冷ややかな感想しかないのか…焦りを覚え始める俺に、しかし岸議員は意外なほど力ない口調で、ぽつりと呟いた。
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